今回は定期的に流れてくる『日本刀の研ぎを素人(研ぎ師ではない人)が研ぐ』という話題について書きます!
さて、タイトルにある『研ぎを失敗せず刀の魅力を引き出す方法』。
結論から申し上げますと、『研ぎ師(その道のプロ)に頼もう』が解となります。
そういうわけで、
- 刀剣を研ぎ師以外の人(素人)が研ぐことに、なぜ刀剣界隈は否定的な意見が多いのか(=素人が刀を研いではいけない理由)
- なぜ研ぎ師に研ぎを依頼するといいのか
という点を述べて参ります。
対戦よろしくお願いします。
なぜ素人が日本刀を研ぐことに刀剣界隈が否定的なのか
これの結論は、『素人による研磨は刀剣を損ねるから』です。
「いや、自分は包丁などを今まで研いできてるから研ぎの心得はある!」
と思う方もいるかもしれませんね。
ただ包丁や鎌などの日用品と、日本刀の美術品/文化財とでは構造や立ち位置が異なるものなので、
仮に包丁研いで云十年だったとしても日本刀は研がないでください。
ピカールもやめてください。シャープナーも。サンドペーパーも。
曲面がある
日本刀の曲線は姿でいうところの”反り”だけではありません。
平地という、刀の部分(橙色部分)も実は曲面になっています。
断面図で考えると、表裏が合わさってハマグリのような形になります。
ここを平面だと思ってガリっと研いじゃうといろいろ削れ過ぎてしまいますし、(刀の状態は”健全さ”という言葉でも表現されるのですが)健全さも大きく損なってしまいますね…(´;ω;`)
日本刀の鉄は二層構造
日本刀は鉄が二層に分かれています。
柔らかい鉄(心鉄・しんがね)の周りを、
硬い鉄(皮鉄・かわがね)が覆っています。
(この二層構造で『折れず・曲がらず・よく斬れる』という性能を実現しています。
この辺の話は後日)
さて、素人による研ぎで皮鉄をゴリっと削って中の心金が露出してしまう事例が多々あるようです。
心金が露出する、削り過ぎてしまうということはその刀の状態・外観を悪化させることにつながります。
また、(刀×価値の話はあまり好きではないですが)素人による研ぎは刀の価値や価格を大きく損ないます。
「錆を落とした方が高く売れるだろう」
とご家族が研いじゃうこともあるようです…(((´・ω・`))))
包丁でもそうですが、研ぎとは『刃物を研ぎ減らす』ことです。
つまり、刀の鉄を少なからず不可逆的に削り取ることと言えます。
これはプロがやってもプロ以外がやっても変わらない事実です。
ではなぜプロが研ぐべきか、という話ですが、
- どのくらい研ぐかの判断を専門的訓練を受けた人が行う
- 刀の表面が凹凸にならないように専門的技能をもった人が行う
- 刀の造形を崩さない(素人研ぎで皮鉄だけでなく鎬筋や横手筋が損なわれたりすることも)
といったところが挙げられます。
(本当に、薄皮一枚レベルの研ぎを均一にやるプロですよ…
ちなみにトーハクに研ぎ師さんの使う砥石も展示されていたのですが、何種類もの砥石を状態に合わせて駆使しているのでプロはすごいなって改めて思いました。)
少なくとも、現在伝わっている刀たちも素人判断で研ごうとせずプロ(研ぎ師)の手によって研がれてきたからこそ数百年(千年以上)経った今も現代の我々を魅了する美しさを保ってきたのです。
三日月宗近の復元プロジェクトがありますね。
また、刀の魅力を最大限引き出すために研ぎ師さんは刀(刀匠)に関する知識量がほんとすごいんですよ…
刀の研ぎ減りを最小限に行い、刀剣の造形を損なわず、かつ刀の魅力を最大限引き出す。
これが研ぎ師さんに依頼するといい理由ですね。
おわりに
名刀と言われる刀でもそうでない刀でも、現代まで奇跡のような運で生き永らえている命ですので、
どんな刀でも大事になさっていただけると1人の愛刀家として嬉しい限りです。
以下は個人的な考えですし刀剣界隈の先達の皆様と意見が違っていたら申し訳ないのですが、
- 理想は錆びさせない(研ぐ機会を必要以上につくらない)こと
- 錆びが生じた場合、理想は研ぎ師に依頼すること
- 研ぎ師に依頼できない場合(経済的な事由など)、絶対に自分で研がないこと
これが現状の最適解かなと思います。
(全ての錆びた刀がプロに研がれてくれるのが理想ではありますが費用面の負担が大きいことなどからが難しい部分があるなって。
例えば寺社仏閣の刀剣でも錆びた刀もありますし。かといってそういったところに一個人が「クラファンなどで研ぎ代を集めては」と提案してでも研がせようとするのも相手方への配慮に欠けますし。第三者から集金する以上は管理や問い合わせ体制などを整えて責任をもたないといけないですし。(過去の刀剣のクラファンでいろいろ問題あったものもありましたし…刀剣とクラファンの話も改めてしたいですね。)
日本刀に興味のない方からしたら、刀の錆を落とすことに数十万単位のお金をかけることに意味を見出せない人だっているかもしれないです。世の中いろんな人がいる。
また、上記記述と矛盾するように感じられるかもしれませんが、研いだとしても研ぎ代 >>> 刀の価値(刀匠、状態など)となる場合もあるでしょうし。錆がすごいなど研ぎが全体に必要な場合は尚のこと。
だから持ち主が勝手に自分で研いじゃうくらいなら錆びたままでこれ以上状態が悪くならないように状態維持してもらって、いつか誰かに譲ってくれたらいいと思います。それが今でも数年後でも最期でもいいですし、いつか「それでも研いだ状態のこの刀を見たいんだ!」と言ってくれる人に出会えるかもしれません。
素人の研ぎで不可逆に損なわれてしまうよりは、まだ幾ばくかの救いがあると思うのです)
最近ではSNSで発信をされている刀剣商や刀匠、研ぎ師の方々も多いですしもし錆びた刀に関して相談したいことがありましたらそちらへご依頼・ご相談なさるのもありだと思いますよ!
周りに錆びた刀でお困りの方がいらっしゃったら、自分で研ぐのだけは全力で止めていただけると幸いです!
では良い刀剣ライフを!!٩(*´︶`*)۶♡
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恒例の番外編的立ち位置のこのコーナー。
今日は書籍の紹介。
刀剣の実用書(鑑賞や手入れなど)で初心者におすすめな本は、と相互さんのTLで募集されていたのでこちらの『日本刀の教科書』と『刀剣甲冑手帳』をこちらでも紹介!
左(日本刀の教科書)は佐野美術館理事長(前館長)の渡邉妙子氏が書いたもので、初心者でもわかりやすく噛み砕いて記載されています。
『科学者に聞く日本刀の保存方法』も「なぜ素手で触ってはいけないのか」などの疑問が対談形式で記されてて堅苦しくなくて読みやすいです。
また、文章も柔らかく温かで刀剣愛に満ちてるので『はじめに』だけでも何ループでも読めますね…!
右の手帳は、西暦と元号の対応表やその時代の代表工が年表にまとまっていたり、銃刀法の刀剣に関する記載などもあったりします。
見た刀をメモできるスペースも載っていますし、代表的な刃文の一覧も載っています。
鑑賞に持ち運びしやすい厚さとサイズ感なので、まさしく刀剣鑑賞に向いた『手帳』と言えるでしょう。
東京国立博物館をはじめとして、各地の博物館も刀剣に関する展示や企画が再開されつつありますし、
一冊あるととても便利な手帳ですよ٩(*´︶`*)۶💓